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高倉研究室

乗用車の車体形状と空気力学特性 (文献[1,2,3])


1.概要

近年,自動車の性能は環境対応に重点が置かれており,燃費性能の向上のために空気抵抗の低減が欠かせない.空力特性を向上させるためには,自動車の車体周りの流れの構造を明らかにすることが必要となってくる[4,5,6].
ここでの一連の研究[1,2,3]では,1/5縮尺の単純形状自動車模型を用いてリアウインドウおよびサイドウインドウの傾斜角を変化させ,抗力や揚力の空力特性がどのように変化するかを風洞実験により調べた. その結果,サイドウインドウ傾斜角をつけていくと,リアウインドウの傾斜による抗力の急上昇は緩和されていき,総じて抵抗低減に繋がることを確認した.
さらに可視化実験により,後流渦の発生と規模を確認し,抗力低減の要因を確認することができた.

2.供試モデルと実験条件

供試モデルとして1/5縮尺模型を使用し,その基本寸法を表1に示す.

形状パラメータとして,リアウィンドウ傾斜角αとサイドウィンドウ傾斜角βを採用し,この2種のパラメータを次のように変化させることにより,合計55通りの供試モデルを形成する.

リアウインドウ傾斜角を0~50°まで5°ずつ変化させ,ボックスタイプからノッチバック形状までとるよう,リアウインドウ傾斜角αを0~50°まで5°ずつ変化させる(Fig. 1(a) 参照).
α = 0° では,ボックスタイプ形状,
0°< α ≦ 20° では,ファストバック形状,
20°< α ≦ 50° では,ノッチバック形状.

サイドウインドウ傾斜角βを0°,15°,20°,25°,30°と変化させる.(Fig. 1(b) 参照)

Table 1 Dimension of Test Model
Reduced Scale
1/5
Length 980 [mm]
Width 360 [mm]
Height 270 [mm]
(a) Parameter α (side view)
(b) Parameter β (front view)
Fig. 1 Configuration of car models[1,2,3].

実験は風洞の流速を30m/s,路面高を30mmとした.

3.実験結果と考察

実験では抗力Dと揚力Lを計測したが,ここでは抗力係数Cdの傾向に焦点を絞る.
Fig. 2は,横軸にリアウィンドウ傾斜角αをとり,サイドウィンドウ傾斜角βごとに (a) Cd分布と (b) Cd・A (Aは前面投影面積) 分布を示したものである.(c) は,農沢らの実験結果[7]を読取り,本実験のαを横軸として示したグラフである.
文献[1,2]では,サイドウインドウ傾斜角βを0°,15°,30°において,リアウィンドウ傾斜角αに対する効果が調べられた.その結果,β=0°,15°では,αが20°~35°付近でCd値が急激に上昇するという周知の傾向[4,5,6]を示したが,β=30°ではその傾向は示さなかった. そこで文献[3]でさらに 15°<β < 30°の間の動向が詰められた.

サイドウィンドウが傾斜しているほうが総じてCd値は低くなる傾向がある.(c)と(a)におけるサイドウィンドウ傾斜角βが0°,15°,20°,25°(β=30°以外)の実験結果はよく知られた傾向を示している.
サイドウィンドウを傾斜させていくにつれて,Cd値が急上昇するリアウィンドウ傾斜角の値は徐々に大きくなり,上昇が緩やかになっている.さらにCd値の上昇幅は小さくなることも確認できた.
しかしながらサイドウィンドウ傾斜角30°の時は,この傾向は見られずCd値は徐々に大きくなる結果となった.
Fig. 2 (b)のCd・A分布をみるとサイドウィンドウ傾斜角が大きくなるにつれて空気抵抗が低減することが明確に表れている.

(a) Cd [3]
(b) Cd・A [3]
(c) Cd-α from Nouzawa's data[2]
Fig. 2 Distribution of drag for change of α and β[3].

空力特性と流れ構造との間の関係は相澤らによる可視化実験によって報告されている[2].
車体後部トランクデッキ付近の空間に対し,5孔ピトー管による速度ベクトル計測[8]を行うが,その格子点状測定点の領域をFig. 3に示す。

(a) Top View
(b) Back View
(c) Diagonally Back View
Fig. 3 Region visualized by five-hole Pitot tube[2].

各サイドウィンドウ傾斜角βに対し,β=30°を除けば,総じて,リアウィンドウ傾斜角α=15°のとき Cd最小,α=25°~35°のとき Cd最大となる傾向がある.
ここでは代表例として,次の条件(Fig. 2で○印を付した条件)の車体形状に対する可視化を示す.

Fig. 4 β=15°に対し, α=15°(Cd最小傾向)
Fig. 5
α=30°(Cd最大)
Fig. 6 β=30°に対し, α=30°(β=15°との比較のため)

Fig. 4,5,6 の各車体形状まわりの流れ場に対し,(a)は表面タフト,(b)は後流におけるタフトグリッド,(c)は 5孔ピトー管による速度ベクトル図,を示している.

Fig. 4(Cdが最小傾向を持つ,β=15°,α=15°)においては,
(a)車体表面上では逆流はしていないが,側縁に流れが集まるので,そこからはく離すると考えられる.
(b)車体上面から吹き降ろす風,車体下面から吹き上げる風が生じ,模型上部両端で小さな後流渦が確認できる.
(c)後部傾斜面に沿って風が吹きおろし,車体側縁からのはく離が小規模な縦渦を形成していることが確認できる.


Plan view

Side view
(a) Surface Tufts (b) Tuft Grid (back view)
(c) Velocity vectors by use of five-hole Pitot tube (diagonally back view)
Fig.4 Visualization of flow field: side-window angle 15°, rear-window angle 15°[2].

Fig. 5(Cd値が急上昇した,β=15°,α=30°)においては,
(a)トランクデッキ上で逆流が生じ,かつ側縁からはく離し,
(b)模型後部で大きな後流渦が発生していることが確認された.
(c)また,流れの向きが主流に対し45°以上変化しているので,5孔ピトー管による流れの計測が不可能となっている.


Plan view

Side view
(a) Surface Tufts (b) Tuft Grid (back view)
(c) Velocity vectors by use of five-hole Pitot tube (diagonally back view)
Fig.5 Visualization of flow field: side-window angle 15°, rear-window angle 30°[2].

Fig. 6(Cd値の上昇傾向のない,β=30°,α=30°)の時には,
(a)車体表面上では逆流はしていないが,β=15°,α=15°の時よりも側縁を向く速度成分が大きくなっているので,そこから生じるはく離もやや規模が大きくなっていると考えられる.
(b)β=15°,α=15°の時と同様,上から吹き降ろす風,下から吹き上げる風が生じており,模型上部両端で小さな後流渦が確認できる.
(c)後部傾斜面に沿って風が吹きおろしており,β=15°,α=15°の時よりも後部傾斜が始まる領域での速度が大きくなっており,車体側縁からのはく離に始まる縦渦もやや規模が大きくなっていることが確認できる.

ここでは,サイドウィンドウ傾斜角が大きくなるにつれて,リア面となす角が鈍角になることにより,サイド面からリア面に巻き込む風の影響が強くなり,逆流を含む大規模縦渦の発生が抑制されていると考えられる.


Plan view

Side view
(a) Surface Tufts (b) Tuft Grid (back view)
(c) Velocity vectors by use of five-hole Pitot tube (diagonally back view)
Fig.6 Visualization of flow field: side-window angle 30°, rear-window angle 30°[2].

4.結論

車体形状パラメータとして,リアウィンドウとサイドウィンドウの傾斜角を変化させ,抗力の変化を調べた結果,
(1)リアウィンドウ傾斜角15°の時Cd値が最小となる傾向が見られた.
(2)サイドウィンドウ傾斜角 0°,15°,20°,25°では,

(3)サイドウィンドウ傾斜角30°では,リアウィンドウ傾斜角に伴う抗力の急上昇は見られなかった.
(4)総じて,サイドウィンドウは傾斜しているほうが抵抗低減に繋がることが確認できた.
(5)流れの可視化により,後流渦の発生と規模を確認し,抗力低減の要因を確認することができた.

参考文献

[1] 新井祐貴,相澤将太,高倉葉子:自動車の車体形状と空力特性,日本機械学会2013年度年次大会,講演番号 G051022,2013年9月.
[2] Shota AIZAWA , Ryosuke MATSUMOTO, and Yoko TAKAKURA: Aerodynamic Characteristics and Wake Structures on Car Models Changed by Configuration Parameters, FLUCOME 2013 (The 12th International Symposium on Fluid Control, Measurement and Visualization), Paper No. 0237, November 2013.
[3] 相澤将太,國森照明,高倉葉子:自動車の車体形状パラメータと空力特性,日本機械学会2014年度年次大会,講演番号 G0510203,2014年9月.
[4] 小林敏雄 (社)自動車技術会編集:自動車のデザインと空力技術, 朝倉書店,1998.
[5] 武藤真理 他:CAR STYLING SPECIAL VOLUM Automotive Aerodynamics,三栄書房,2001.
[6] Wolf-Heinrich Hucho, ed.: Aerodynamics of Road Vehicles, Society of Automotive Engineers, Inc., 1998.
[7] 農沢隆秀 他:自動車形状を持つにぶい物体の空気抵抗低減に関する形状パラメータの研究,日本機械学会論文集(B編)58巻556号,1992.
[8] 高倉葉子,石川貴大,米満竜太,高木通俊:5孔ピトー管による自動車模型まわりの流れの定常・非定常測定,自動車技術会秋季学術講演会,No. 121-20125515, 2012.



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