高精度衝撃波捕獲法に関する研究



1.衝撃波捕獲法とは?

流体力学問題の数値計算法では,風上差分を用いないと数値解は不安定になり非物理的な振動が生じることは周知のとおりです。特に衝撃波などの解の不連続を含む問題では不安定性が顕著に現れるため,衝撃波近傍で人工粘性を多く加えて解の振動を抑制することが行われてきました。これも風上差分化のための1方法ですが,人工粘性の係数をいかほどにしたらよいか,という問題が残ります。

さて近年,不連続を扱う非線形保存則において,次の条件

を満たすとき数値解が厳密解(すなわち保存則の弱解)に収束することが証明されました。ここで弱解とは,偏微分方程式の解として微分不可能な不連続を含むものも許容するときの解のことで,無数に存在します。その中から唯一解を得るために,数学的なエントロピー条件が課せられます。この条件はエントロピー増大の法則に対応しており,物理的に正しい弱解を選択することになります。 ただし,数学において収束が保証されているのはスカラー1次元方程式に対してのみですから,実際の流体力学問題への適用/実用化には多少の近似が入ります。 TVD (Total Variation Diminishing) 法とは以上の条件を満たす数値計算法の総称ですが,初期における名称:TVNI (Total Variation Non-Increasing) 法のほうが正確でしょう。
このような衝撃波を捕らえるための数値計算法を衝撃波捕獲法(Shock Capturing Method)と呼びますが,特にTVD法以降のものは現代的衝撃波捕獲法(Modern Shock Capturing Method)ともいわれます。


2.衝撃波捕獲法(TVD法)の実用化

下記は世界に先駆けてのTVD法の3次元実用化でした。

TAKAKURA,Y., ISHIGURO,T. and OGAWA,S.:
On TVD Difference Schemes for the Three-Dimensional Euler Equations in General Coordinates,
International Journal for Numerical Methods in Fluids, Vol.9, No.8, John Wiley & Sons, pp.1011-1024, 1989.

TAKAKURA,Y., ISHIGURO,T. and OGAWA,S.:
On the Recent Difference Schemes for the Three-Dimensional Euler Equations,
AIAA paper 87-1151-CP, Proceedings of AIAA 8th Computational Fluid Dynamics Conference, McCroskey,W.J., ed., pp.537-545, 1987.


下記はTVD法をマルチドメイン法とともに用いた実用計算です。
TAKAKURA,Y., OGAWA,S. and WADA,Y.:
Transonic Wind-Tunnel Flows about a Fully Configured Model of Aircraft,
AIAA Journal, Vol.33, No.3, pp.557-559, 1995.


3.現状の衝撃波捕獲法(TVD法)の問題点

精度:

現状のTVD法を非線形保存則に適用すると2次精度止まりとなります。そのため,音波や乱流などによる微弱な圧力変動と衝撃波による強い圧力変化を同時に捕らえることは困難です。
リーマン・ソルバー:
保存則の問題において,解の初期分布として不連続の両側でそれぞれ一定値を与えるものをリーマン問題と呼び,その解法をリーマン・ソルバーといいます。

衝撃波捕獲法は,至るところに衝撃波と膨張扇の"源"があるという観点に基づくものです。 このためTVD法では,セル内で物理量は連続分布ですがセル境界において不連続(これがその"源"です)を許容し,セル境界における物理量の値を求めるのにリーマン・ソルバーを用います。求まったセル境界物理量から流束を計算し,各セルに対する保存則を解けば,次の時間ステップにおける物理量が求まることになります。 リーマン・ソルバーとしては,1次元Euler方程式に対する相似解(いわゆる衝撃波管問題の解)やその簡略化版(よく用いられるのはRoe平均)がありますが,解離などを含む化学反応流,電磁流体,混相流などにおけるリーマン問題の解はよくわかっていません。

なおスカラー1次元保存則 (∂q/∂t)+(∂f(q)/∂x) = 0 では,流束関数 f(q) は通常は線形関数 f(q) = q か,凸型関数 f(q) = (1/2)*q*q として扱われていますが,これは非粘性圧縮性流体に対するモデル方程式と見なせます。上述の複雑な流れに対しては,モデル方程式として非凸型の流束関数を考える必要があります。

多次元化:
冒頭で述べたように,数学において数値解の厳密解への収束が保証されているのはスカラー1次元方程式に対してのみです。数値計算においては様々な多次元化が行われています。 多次元化問題は上述のリーマン・ソルバーの問題とも関連します。 また,衝撃波近傍から数値解が発散していく,カーバンクル現象と呼ばれる発散形態がありますが,これも多次元問題解法に起因する数値的不安定性とされています。


4.上記の問題点を解決しようとする高精度衝撃波捕獲法

不連続を含む非線形保存則に対する解法高精度化の試みは,難問に挑戦しようという気概のある世界中の研究者に脈々と受け継がれ,ENO/WENO 法,Discontinuous Galerkin 法,ADER 法などにおいて最近新たな進展が示されました。特に欧米で若い学生や研究者がこの分野に参入してきていますが,この分野に携わっている方々が学生を指導する立場になったのでしょう。 ここ(どこでしょう?)ではあいかわらず,”そんな細かい”,"そんな狭い","そんな古い"というたぐいのゆがんだ見解のみがまかりとおるのでしょうか
ADER法に関して特筆すべき点は,一般リーマン・ソルバー(保存則の解の初期分布として不連続の両側で一定値ではなく連続微分可能な関数分布を与える問題の解法)が提案され用いられたことです。当初ADER法は線形保存則に対して提案されましたが,下記論文の著者が数年前にADER法の非線形保存則への拡張を行うようになったのは,ADER法の構築のごまかしのない美しさ,巧みさに感服したからです。 既存の知識の中で一般リーマン・ソルバーを構築できるのに,何故それまで誰も気づかなかったのだろうか,という驚きと悔しさ(!)もあります(蛇足ですが)。

以下で扱ったADER法はそのような流れの中で行われた研究で,精度,リーマン・ソルバーともに注意が払われています。

Yoko TAKAKURA:
Direct-Expansion Forms of ADER Schemes for Conservation Laws and Their Verification,
Journal of Computational Physics, Volume 219, Issue 2, pp. 855-878, 2006.

===> DOI (digital object identifier ) Link


TAKAKURA, Y.:
Various Forms of ADER Schemes for Nonlinear Conservation Laws with Source Terms and Their Verification,
HyperbolHyperbolic Problems: Theory, Numerics, and Applications (Proceedings of the Tenth International Conference on Hyperbolic Problems 2004), Yokohama Publishers, F. Asakura et al., Eds., II, pp.345-352, 2005.

高倉葉子:
生成項を含む非線形保存則のための高精度スキームとその検証,
日本流体力学会誌「ながれ」,23卷4号,pp.263-272,2004年8月.

TAKAKURA, Y. and TORO, E.F.:
Arbitrarily Accurate Non-oscillatory Schemes for Nonlinear Conservation Laws with Source Terms,
AIAA paper 2002-2736, 2002.

TAKAKURA, Y. and TORO, E.F.,
Arbitrarily Accurate Non-oscillatory Schemes for a Nonlinear Conservation Law,
Computational Fluid Dynamics JOURNAL, Vol.11, No.1, pp.6-17, 2002.


記: 高倉


 戻る

by Y. TAKAKURA