( Last updated : June, 2000 )

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高倉葉子博士の業績紹介


同博士の主要な研究生活は、所属していた富士通株式会社と科学技術庁航空宇宙研究所
との共同研究から始まり、翼まわりの遷音速流の数値計算や格子形成を手がけた(Theoretical 
and Applied Mechanics, 1985)後、TVD (Total Variation Diminishing) 法の実用化に
小川博士と共に取り組んだ(Theoretical and Applied Mechanics, 1988)。
TVD法は、スカラー非線形双曲型偏微方程式における解の不連続を捕らえることが証明されて
いる数値解析法であり、それを流体の方程式に適用すれば衝撃波を数値的振動なく捕獲する
ことが期待され、1980年代に米国で様々な試みがなされた。博士はTVD法を一般座標に適用す
るために数学的に正しい式を導き(Int. J. for Numerical Methods in Fluids, 1989)、
それまでの問題点及び誤りを指摘した上で改良を示し、一般座標3次元TVD差分法を用いて
3次元翼まわりの流れにおいて強い衝撃波と弱い衝撃波を捕らえることに世界に先駆けて成功
した(AIAA paper 87-1151, 1987)。この研究はTVD法が圧縮性流体の数値計算法における
主流になっていく過程でのブレークスルーの役割を果たした。

更にTVD法を翼まわりの粘性流に適用した(Lecture Notes in Physics 323, 1989)上で、二方
程式モデルやSGS (Sub-grid Scale)モデルなどの乱流モデルの圧縮性流体への適用・改良を
試み(Theoretical and Applied Mechanics, 1989)、評価を行った(AIAA paper 89-1952,
1989)。そこで示された計算法およびモデルは現在日本において乱流や燃焼流の数値計算に用い
られている。

さて航空機という複雑形状物体まわりの流れの計算を行うためには格子形成が不可欠となるが、
双曲型偏微分方程式を用いる方法(Elsevier Science Pub., 1988)と代数的方法の利点を組み
合わせた上で曲面幾何を考慮して、凹凸の多い複雑形状物体まわりの格子形成法を提案した
(NAL SP-16, 1991)。候補者と小川博士は複数の領域を接合、重合させる多領域法を独自に開発
し、日本版シャトルHOPEとH−II ロケット、ブースター6個との組み合わせ形状まわりの超音
速流を解くことに成功し(NAL SP-16, 1991)、その開発に貢献した。更には多孔壁の効果をモデ
ル化して(AIAA J., 1995)、航技研大型遷音速風洞内に設置された航空機全機モデルまわりの遷
音速流を風洞ごと解くことに成功し(AIAA paper 93-3022, 1993)、実験装置ごと流れ場を解い
て実験と計算の精度を検証するという思想を打ち出した。これは現在、数値計算が役立つ重要
な方向と見なされている。

同博士は1994年に東京農工大学に移ってからは、より物理的に基本的な現象へと研究対象を移
した。その1つは東野博士と行っている超音速キャビティ流れの空力音響学的研究であり
(Parallel CFD 1996, Invited paper)、圧力振動の原因は渦にあるのか、音波にあるのか、ある
いはその相互干渉にあるのか、というこの20数年間の議論に対し、実験データを考察した上で
数値計算結果を解釈すると、渦から生じる圧縮波が圧力振動の重要な要因であるという結論に達
し(Lecture Notes in Physics, in press)、伝播モデルと振動メカニズムを明らかにした(AIAA 
paper 99-0545, 1999)。また衝撃波の伝播、減衰、反射、回折に関する研究を東野博士と共に行
い(Parallel CFD, 1995)、準定常流れにおけるユニット波と非定常流れにおけるブラスト波の傾
斜壁面反射形態において、マッハ反射から複合マッハ反射へ遷移、また複合マッハ反射から二重
マッハ反射への遷移はブラスト波のほうが早く起こること、更に高温空気の反応モデルを組み込
むと三重点は壁面側へ近づくことを明らかにした(22nd ISSW, 1999)。

数値計算法の開発に関しては、移動境界問題に対して移動座標法を提案した(Computers & Fluids, 
1998)。これを多領域法と組み合せてバリスティックレンジ内の飛翔体まわりの流れの数値計算を
行い、射出直後の流れに着目してバリスティックレンジ内の流れの特性を明らかにした(Proc. 
21st ISSW, 1997)。また本方法をカットセル法と組み合せることにより単領域問題に適用して、
高電圧ガス遮断機の開極動作時の流れの数値計算を行った(1st ICCFD, 2000 (to appear))。
更に本方法やALE(Arbitrary Lagrangean Eulerian)法などの移動境界問題の支配方程式は一般座
標保存系表示式から統一的に導かれること、幾何保存則は支配方程式の導出から理解すべきこと
を示し、移動境界問題と保存性に関する展望を包括的かつ明確に示した(Japan 12th CFD Symposium, 
1998; J. JSCFD, 2000)。

以上のように同博士の数値流体力学の発展に対する寄与には少なからぬものがある上に、
日本機械学会計算力学部門委員、日本数値流体力学会の編集委員・運営委員、日本航空宇宙学会
空気力学部門幹事及び委員、日本航空宇宙学会評議員を歴任し、各学会の発展に貢献してきた。

以上の業績が評価され、同博士は、2000年1月に,AIAA (American Institute of Aeronautics and 
Astronautics:米国航空宇宙学会) Associate Fellow に選ばれた。