現在私たちの暮らしは沢山の産業によって支えられています。また移動や輸送の要である自動車も生活を豊かにするために欠かすことの出来ないものです。しかし現在、工場、自動車、船舶などが使用している燃料由来のエネルギーの多くは排熱として未利用のまま捨てられています。もしもこれらの膨大な排熱や、太陽熱、地熱などを高効率で回収し再動力化することが可能であれば、地球温暖化や資源枯渇問題を緩和することが出来ます。これらの未利用熱を再利用するために私たちは「熱音響現象」に関する研究を行っています。
熱音響エンジンは動く部品が無いのにどうやって動作しているのでしょうか。実は気体の振動、「音波」を使って熱と仕事の相互変換を行っています。 細管の片方をある温度以上まで加熱して、片方を冷やすと、筒の中の空気が不安定になり振動を開始します。この振動がピストンの代わりとなり、熱と仕事のエネルギー変換が行われます。
そのため、熱音響エンジンはピストンを持たない(あるいは音波がピストンの代わりをしている)熱機関と見なすことができます。
熱音響エンジンを身近で体験するためには、以下の動画で示すレイケ管が良いです。直径20~40mmくらい、長さ400mm~1000mmくらいの取り扱いしやすいステンレスのパイプの中に、ステンレスメッシュを重ねて入れます。ステンレスメッシュは3mmくらい重ねると良いと思います。メッシュの網は0.5~1mmくらいの幅が空いているものが良いです。また挿入位置はパイプ全長に対して、1/4位の位置が望ましいです。ガスバーナーで下側から加熱し、管を垂直に立てると、とても大きな音が鳴ります(※この場合、進行波型のエネルギー変換ではなく、定在波型のエネルギー変換が行われています。)。ステンレスメッシュが動いているわけではなく、気体が振動し音波として聞こえています。不思議で興味を惹かれる現象だと思います。ホームセンターで買えるものばかりなので、是非試してもらえたら嬉しいです。
上の動画では音が鳴るだけですが、熱音響エンジンと流体の振動で発電できるリニア発電機を組み合わせた「熱音響発電機」や、熱音響エンジンと熱音響ヒートポンプを組み合わせた「熱動作・熱音響ヒートポンプ」を用いることで、発電や冷却・加熱が可能になります。
よって工場廃熱や自動車・船舶からの廃熱,太陽光などを熱源として使用して、発電や冷却を行うことが出来る可能性があります。様々な用途に使用できることから、現在実用化を目指した研究が行われています。
私たちも以下の写真のように船舶廃熱を利用した熱動作・熱音響ヒートポンプを作り、実際に瀬戸内海の漁船に搭載し性能を検証しました。実験ではディーゼルエンジン廃熱から-30℃以下の冷凍動作を実現しています。
熱音響現象は、発電やヒートポンプだけではなく、ヒートパイプのように熱の輸送を活発化することもできます。これは「ドリームパイプ効果」と呼ばれています。温度域に依らず、加熱すればするほど、熱の輸送効果が高まるので、高温な機械や物質の安定放熱に使用できると考えています。
また熱音響現象は非線形性も有しているので、カオス、同期、衝撃波など多様な非線形現象を観察することもできます。様々な先行研究があるので、是非検索してみてください。
熱音響現象は音波と熱が相関する興味深い現象であり、基礎から応用、実用化まで多岐に渡る研究が可能なとても面白い領域だと考えています。